弁護士から自己破産はできないと言われたとき

 弁護士あるいは司法書士に相談したところ,「あなたの場合は自己破産は無理です」あるいは「あなたの案件は引き受けられません」と言われてしまうことがあるかもしれません。実際に,当事務所の依頼者の方の中には,別の弁護士・司法書士からそのように言われて当事務所に相談に来られた方は少なくありません。
 弁護士・司法書士が,「自己破産はできない」とか「引き受けられない」と言う理由には,次のようにいくつかの類型がありますが,当事務所でお引き受けできる場合も多くありますので,まずはご相談下さい。

■ 著しい免責不許可事由がある場合
 軽微な免責不許可事由がある場合は珍しくありませんが,例えば,過去7年以内に自己破産をしたことがある,債務の大部分を遊興に使用しているというように,著しい免責不許可事由がある場合には,自己破産を申し立てたとしても免責の見通しがたちにくいことから,依頼を断られることがあります。
 しかし,免責不許可事由がある場合であっても,実際に免責不許可となることは極めて稀と言えます。準備を適切に行って申立をすれば,多くの案件では免責決定を得ることができます。

■ 借りたばかりなのに自己破産の相談をした場合
 例えば,数ヶ月~1年程度で数百万円を借り入れ,ほとんど弁済をせず,すぐに自己破産を希望するような場合です。このような場合は,破産法に定められた免責不許可事由に該当することはありませんが,弁済するつもりもないのに借りたのだろうと疑われても仕方がありません(*1)。もしそれが事実なら,詐欺罪(刑法246条)に該当する犯罪行為です。そうすると,そのような方から弁護士が破産申立の依頼を受けることには,倫理上の問題があります。
 また,このような場合,たとえ自己破産を申立てたとしても,そのような債務は非免責債権(253条1項2号)となる可能性が高いため,免責決定を受ける意味がないとも考えられます(*2)。
 以上のような理由で,私自身も,このような場合には,なるべく自己破産以外の方法をお勧めするようにしています。
 例えば,継続的な収入があるのであれば,債務整理特別調停をお勧めします。債務はほとんど減りませんが,当初の約定よりも低い弁済月額・約定利率で合意できる可能性があります。
 仮に,以上のような手続ができないほど収入が少ない場合には,消滅時効の完成を待つという方法もあります。時効更新事由(*3)が生じることなく,最後の弁済(*4)から消滅時効期間(*5)が経過すれば,債務は時効により消滅します。
 なお,このような借入について個人再生を申し立てたとしても,不当な目的での申立(民事再生法25条4号)として棄却されるおそれがありますので注意が必要です(札幌高決平成15年8月12日)。

*1 借りたばかりなのに返済できなくなったことについて,債務者には全く責任がない場合は除きます。例えば,借りた直後に,勤務先が倒産した,大怪我をした,重病を患ったなどという場合が考えられます。
*2 非免責債権か否かは,破産手続き上は吟味されず,債権者からの別訴で審理されます。債権者が金融機関や貸金業者などの場合は,免責決定さえ出されれば,非免責債権か否かに関わりなく,債権回収を打ち切るのが通常で,別訴を提起してまで回収を図ろうとすることは少ないでしょうから,免責決定を受ける意味が皆無とは言い切れません。
*3 時効更新事由とは,訴訟提起,差押え,弁済など,時効の進行を更新する事由のことで(民法147条~154条),民法改正前(改正民放は2020年4月1日から施行されています。)は「時効中断事由」との名称でした。
*4 債権調査手続のない同時廃止事件の場合の起算点です(民法152条参照)。
*5 債権の消滅時効時効は原則5年間です(民法166条。但し,民法改正により2020年4月1日より前の原因により生じた債権の消滅時効期間は原則10年間です)。なお個人再生手続きには,通常の民事再生手続きと異なって,確定判決と同じ効果はありませんので,民法169条(判決で確定した権利の消滅時効)の適用はありません。

■ 債権者にヤミ金融がある場合
 債権者にヤミ金融がある場合に受任できないというのは,法律事務所の防犯上の理由からと推測します。
 しかし,近年は,ヤミ金融と言っても,東京等の遠隔地を拠点とし(大阪から見た場合です),携帯電話だけを使用して取り立てをしている者が大半ですから,暴力行為等に及ぶことは稀と考えられます。
 当事務所では,原則として,ヤミ金融から借りているということだけを理由に依頼をお断りすることはありません。

■ 弁護士費用の支払いができない場合
 弁護士費用は弁護士ごとに異りますが,一般的には自己破産申立の場合30万円(税別)です。困難な事案の場合には,更に高額になることもあります。そして,弁護士費用は,一括払いを求められることも珍しくありません。費用の支払いができないために,弁護士に依頼できないという場合もあるでしょう。
 当事務所では,自己破産申立の弁護士費用は,他の一般的事務所と同じく標準的な事案で30万円(税別)ですが,分割払いをご希望の場合には,家計の状況を詳しくお聞きした上で,場合により3~5回程度の分割払いには対応させて頂いています。また,可能な限り法テラスをご利用いただいています(当事務所で法テラス申込みができますので,別途法テラス窓口へ出向いていただく必要はありません。法テラス利用の場合でも,自己破産申立の手続は私が行います)。法テラスを利用した場合,弁護士費用が低廉(借入先の件数により15万4000円~21万円です)となりますし,分割払い(毎月5000円程度の支払いで,無利息)が認められます。また,生活保護受給中の場合には,弁護士費用の支払いが免除されます。

■ 管財予納金の用意ができない場合
 個人の破産申立で管財事件となることは多くはありませんが,会社経営者の方などは,管財事件とされて,管財予納金の納付を求められることがあります。大阪地方裁判所の取扱いでは,最低20万5000円の管財予納金が必要です。この金額が用意できない場合には,裁判所に自己破産手続をすすめてもらうことができません。
 しかし,どうしても管財事件にしなければならない案件はさほど多くはありません。このあたりの判断基準は,弁護士により若干異なるところがあると思われますので,まずはご相談下さい。

 また,生活保護受給中の場合は,法テラスから管財費用の援助を受けられますので(返済は免除されます),心配はありません。

■ 弁護士の指導指示を実行できない場合

 弁護士に依頼した場合には,様々な書類の準備や費用の支払いが必要です。これらについて,弁護士から指定された通りの内容・期日で実行できない場合に,弁護士が辞任してしまう場合があります。とりわけ大人数で分業制により大量に受任している法律事務所では,依頼者の方が決められた通りに行動されないと業務に支障が出ますので,この傾向が強いようです。中には,その方の収入や生活状況に照らして到底不可能な指導指示を受けているような事例もあります。

 当事務所にはこのような理由で他の事務所から断られた方のご相談もお受けしております。それぞれの方の個別の事情をしっかりとお聞きすることにより,個別の事情に合わせた無理のない方法で書類や費用の準備をしていただいています。