尋問について

訴訟手続きでは,当事者や証人の方の尋問手続きが行われることがあります。

ご質問の多い事柄をまとめてみました。

■証言の位置づけ

当事者や証人の証言によって,裁判の結論が決定的に変わるということは例外的です。現在の日本の裁判では,書面,写真,録音,動画などの動かぬ証拠が重視されます。人の記憶に基づく表現である証言は,証言者の個性,能力,動機,立場などにより,同じ事実について語る場合であっても様々に変化する可能性があるためです。

従って,証言によって形成を逆転しなければならないとか,証言に失敗したら敗訴してしまうなどということは多くはありません。裁判所に提出してきた準備書面や証拠と整合性のある証言ができれば上出来です。そのためには,準備書面に事実と異なることを書かないこと,証言では体験したことを正直に話す姿勢が大切と考えます。

■打ち合わせをします。

依頼者の方と弁護士は証言前に打ち合わせをします(第三者の証人の場合は打ち合わせができない場合もあります)。

どのように打ち合わせをするかは,依頼者の方の個性により違ってきます。記憶力,表現力,経験値などの個性に応じて準備をします。打ち合わせ不足により弁護士の質問の意図とは異なる証言をするのは問題ですが,逆に準備をしすぎて台本を読んでいるかのような証言をしてしまうと「証言させられている」ような感じになり,信用性が低くなってしまいますので,弁護士としては注意と工夫が必要です。

■当日の持ち物,服装について。

服装に決まりはありませんが,華美ではない常識的な服装が望ましいでしょう。スーツなどが無難ですが,普段着の方も珍しくありません。普段背広を着ない方がわざわざ新調される必要まではないと考えます。

あまりに砕けた格好や極端な恰好をしていると(ビーチサンダル,ショートパンツ,サングラス,大量のピアスなど),証人に対する負のバイアスがかかりかねませんので,お勧めはできません。また,相手方が背広を着ているのに自分は普段着という場合,人によっては自信が持てなくなることもあり得ます。

持ち物は,印鑑(認め印),身分証明書(運転免許など),筆記用具,メガネ(読み書きに必要な方)をお持ちください。裁判所によっては,建物入口で金属探知機による持ち物検査があります。

■宣誓があります。

最初に証言予定者全員が証言台の前に隣り合わせに立って一緒に宣誓をするのが原則です。

相手方当事者と並んで声を合わせて宣誓書を読み上げることになりますので,これが不快な場合や,同席すると相手方から暴力等の危害を加えられるおそれがある場合などには,事前にご相談ください。

宣誓後は予め決められた順番に従い証言します。証言する方は証言台にある椅子に腰かけ,後の順番の方は傍聴席又は代理人席の隣に着席します。

■相手方に証言を聞かれます。

証言中は相手方も法廷内にいますので証言内容を聞かれます。反対にご自身も相手方の証言を聞くことになります。

証言中に相手方や傍聴人から姿を見られたくない場合には,遮蔽の措置(証言者と相手方又は傍聴人の間に衝立を設置。民事訴訟法203条の3)などが取られることがあります。

相手方の証言を聞くことが堪えられない場合は,法廷の外に出ておくとよいでしょう。但し,相手方の証言を知ることで,自身の弁護士に対し気づいた事柄を情報提供できる場合もありますので相手方の証言は聞いておくことをお勧めします。

相手方の証言中にヤジを飛ばすことは厳禁です。裁判官に悪い印象を持たれますし,悪質な場合には退廷を命じられます。

■書面を見ながら証言することはできません。

尋問では,メモや手帳などを見ながら証言することはできません。但し,提出されている証拠のある部分について質問される場合などに,該当する部分を尋問者から見せられることはありますので,メガネが必要な方は準備をしておきましょう。

■何度も説明してきたことを聞かれます。

尋問では,それまでに弁護士に対して何度も説明してきた事柄を改めて質問されます。何度も話した事柄なのになぜまたそれを聞くのか,と不審に感じるかもしれませんが,裁判官の面前で自分の言葉を使って証言することにより,主張の正しさを確かめているのです。

■叱責される場合もあります。

尋問では,相手方の弁護士から,意地悪な質問を受けることがあります。これは様々な角度から質問することによって証言の正しさを確認するためですので,感情的にならず,冷静に答えるべきです。感情的になって質問に答えないまま反論をしたり,間違った発言をしたりすることは有害ですので注意が必要です。

中には必要以上に証言者を叱責する弁護士もいますが,尋問に一生懸命になっていることの他に,依頼者の希望に沿うためのパフォーマンスの場合も考えられます。上記と同じく感情的になることには何の利点もありませんので,冷静に対処する必要があります。

反対に,自分の依頼した弁護士が相手方を強く叱責してくれないと不満を感じる場合もあるでしょう。しかし,尋問手続きは相手方を困惑させたり,反省させたりする場ではありません。依頼者に対するパフォーマンスのために証人を不快にさせることについて,裁判所は否定的です。叱責を受けて相手方が反省し,こちらに有利な証言を始めることは現実にはまず起こりません。

■質問が難しいときなど。

質問の意味や意図が分からないときは,無理に答える必要はありません。まずは,質問の意味が分からないことを正直に申し出ましょう。

言葉の意味が分からない,いつのことを聞かれているのか分からない,何かを見れば思い出すかもしれない,そもそも覚えていない,などすぐには証言できない場面は多いものです。なぜすぐに証言できないのかを説明しましょう。

■相手方当事者には念押しはしません。

相手側の証人が何か大事なことを言ったように思われた場合に,尋問するこちら側の弁護士が念押しの質問をしたために,「いえ,そういう意味ではありません」と,正反対の証言を引き出して藪蛇になってしまうことがあります。このため,尋問にあたっては,念押しや深追いは危険なものとされています。もともと証人尋問で決定的に裁判の結論が左右されることは少ないのですから,敢えて危険を冒して深追いするよりも,証人の信用性を揺るがせることで十分です。

従って,弁護士が大切に思われる場面で証人に念押しをしなかったことを心配する必要はありません。