上野千鶴子著「在宅ひとり死のススメ」 

著者は,1人暮らしで介護が必要になったとき,認知症になったとき,それでもできるかぎり死ぬまで在宅で生活する道を自分のこととして探求しています。本書は,高齢者の一人暮らしは,たとえ介護が必要になっても,難しいことでも,恐ろしいことでもなくて,多くの人にとっては最善の選択となりうることを,豊富な知見に基づいて教えてくれます。

著者は,認知症の予防に躍起になるよりも,認知症になっても安心して暮らせる社会を作ることを提唱し,安楽死尊厳死を,人の役に立たなくなったら死んでもよい・死ぬべきという価値観に通じかねないものとして注意喚起します。老化と死は誰にでも訪れるものですから,多くの人々にこのような価値観が共有されることを望みます。

 

 

wan.or.jp

夜回りに参加させていただきました。

大阪市北区でホームレスの方々,生活困窮者の方々を支援されている認定NPO法人Homedoor (ホームドア)さんの夜回り活動に参加させていただきました。

 

www.homedoor.org

 

普段の私の業務では,仕事の性格上,生活保護申請のみしかお手伝いをしておらず,生活保護申請に至る前の方々の現状や,申請後の生活状況を知る機会はほとんどありません。

そのため,どのような方々が路上で生活されているのか,どのようなことを望んでおられるのか,どのように声をおかけすればよいのか,ということを知りたいという思いが強くなっていました。

今回の夜回りでは,繁華街を2時間ほど歩きました。一見して路上生活をされていると分かる方ばかりではなく,一般の旅行者と区別が付かない身なりをした方や,逆に路上生活をされているように見えるけれども,実際にはそうではなく,事情があり家に居づらいために戸外で時間を過ごしているという方もおられました。

路上で出会う方々は,他の通行人や旅行者に紛れ,目立たないようにひっそりとベンチに座っていたりするのですが,夜回りを続けておられる方々は慣れており,すぐにそういった方々を見分けて声をかけておられました。お弁当,お茶,カイロなどをお渡しするのですが,喜んで受け取ってくださる方もいれば,丁寧に断られる方もおられました。この日お会いした方々は,すぐに助けてほしい,生活保護を受けたいと訴える方はいらっしゃいませんでした。

Homedoorのスタッフの方々の話では,夜回りは月に2回実施しており,そこで出会う方々のほとんどは数年前からスタッフの方と顔見知りだということでした。そして,顔見知りになって言葉を交わすようになっても,生活保護を受けたり,家を借りて暮らすことは望まれない方が数多くおられるということでした。それでも,本当に助けが必要になったときに頼れる先があることが大切ということで,定期的に夜回りをしてお会いするようにしているということでした。

元当事者でボランティアを続けている方のお話では,かつて生活保護を受けていた時に知人から税金を無駄遣いしていると非難されたり,福祉事務所のケースワーカーから侮辱的な扱いを受けるなどされたたために生活保護を受けることに嫌悪感を持っている方,親族との関係が悪かったり親族から虐待を受けたりしているために生活保護申請時に行われる親族への扶養照会を恐れている方などが,路上生活を選んでいるということでした。中には,福祉事務所の指導に従いながら暮らしていくことに馴染めず,厳しい路上生活を敢えて続けている方もおられるということでした。

近年では,大っぴらにブルーシートハウスを作って生活できる場所もなくなり,ベンチには寝ころべないように仕切りがつけられたり,路上生活中に雨露を防げそうな場所にはゴロゴロした石が路面から突き出すように埋め込まれたりフェンスが張り巡らされたりし,路上での生活がますます厳しくなっています。こういった状況にかかわらずあえて路上生活を選択する方々がいるということについて,単に個人が自由に選択した結果と片付けることはできないように思います。

生活保護に対する偏見や心理的な障壁,生活困窮者のおかれた状況に対する社会的な無理解,不十分な福祉施策など,構造的な問題と考えます。

ホームレス状態からの脱出について

ネットカフェや路上で生活されている場合でも,生活保護の申請ができます。住所がなくても大丈夫です。

この場合,昨夜過ごした場所の区役所(大阪市の場合)に申請をするとよいでしょう。窓口では,住所がないから受け付けができないと言われるかもしれません。それでもあきらめずに,申請書を出させて欲しいと主張しましょう。

申請後は,集団生活をする施設入所を勧められます。しかし,施設入所は永久的なものではありません。施設は一時的なものと考えて,まずは入所された方がスムーズに手続きが進むように思います(生活保護申請後には福祉事務所の職員が自宅訪問をして居住実態を確認するという手続きがあるのですが,路上で生活されている場合には,どうやって居住実態を確かめるのかという問題が発生することが原因のひとつと思われます。)。

私自身は,生活保護申請後も施設に入所されず,ネットカフェや路上での生活を継続される方の支援をした経験がありませんので,このような場合に福祉事務所がどのような対応をするのかは不明ですが,機会があれば確かめてみたいと思っています。

身の回りのことが自分でできる方の場合には,生活保護の開始が認められた後に,施設を出て,賃貸住宅を借りて一人暮らしを始めることができます。住宅を借りる費用が用意できない場合は,一定の条件はありますが,福祉事務所から敷金や仲介業者の手数料等の支給を受けることも可能です。

当事務所では,ネットカフェ,路上からの脱出や,施設からの退所などの手続きについて,支援をしています。電話相談も受け付けております。

当事務所では,こういった支援について法テラスを利用しますので,弁護士費用のご負担はありません。

 

 

 

 

久保校長の処分は不当です。

大阪市教育委員会は,提言をした久保校長を文書訓告としました。

市教委は久保校長の意見表明が地方公務員法定める「信用失墜行為の禁止」にあたると判断したそうです。

現場の真摯な意見を封殺することは,逆に市教委の信用失墜をまねくのではないでしょうか。

 

www.asahi.com

生活保護の申請ではどのようなことを聞かれるのか

私が申請される方に同行した際に見聞した経験にもとづいておおまかにご説明します。個別の事情により細部は異なりますし,他のことを聞かれることもあります。また,弁護士が同行しない場合でも内容は同じようなものと思われますが,「あまり話を聞いてくれずに申請を断られた」「働ける年齢だから無理と言われた」などというお話もよく聞きます。

 

■氏名,住所,年齢などの大まかな確認

記入用紙を用意している自治体もあります。運転免許証などお持ちの身分証明書の提示を求められることもあります。

■申請理由について

怪我,病気,高齢,不況のために働くことができず,頼れる親族などもなく,収入がないということが理由としては多いと思います。不況でなかなか仕事が見つからないというのも正当な理由です。

若くて健康なのに就労先がない場合には,就職活動を行うように指導されます。

病気(うつ病などのメンタル面の不調を含みます)で働けない場合は,医師の診察を受けるように指導されます。医師から就労不能との診断が出れば,就労指導は行われません。

■収入について

働いている方は勤務先と収入金額を,働いていない方はその理由を聞かれます。

また働いて得る収入以外に年金,養育費,仕送りなどの収入の有無について聞かれます。

■生活状況について

どこで暮らしているのか,自宅は持ち家か賃貸か,同居人はいるのかなどについて聞かれます。

病気や障害をお持ちの場合は,通院先などを聞かれます。

■資産について

不動産,保険契約,預金口座などについて,どこにどのような資産をお持ちなのか確認されます。

■生い立ちについて

どこでどのように暮らしてきたのかを順を追って詳しく聞かれます。

出生地,学歴,職歴,結婚歴,転居歴,犯罪歴など,かなり細かく聞かれますので,予め書き出しておいて持参するとスムーズです。

犯罪歴などがあっても不利にはなりませんので,ありのままに説明しましょう。

■親族関係の確認

親,子,兄弟などについて,名前や居住場所を聞かれます。親族から援助を受けられるかどうかも聞かれますが,援助を受けられない場合は,受けられないとはっきり説明しましょう。親族がどこに住んでいるか分からない場合には,住所は分からないと説明すれば足ります。

この聞き取りをもとに,福祉事務所から親族に対して扶養照会が行われますが,扶養を受けられる見込みが全くない場合や,危険な場合(親族の暴力から逃げている場合など)には行われませんので,そのことをはっきりと伝えましょう

 

以上のような事柄について,質問を受けて口頭で答えるだけではなく,申請用紙にも自分で書き込むことを求められます。申請用紙の書き方は担当者が教えてくれます。聞かれた事柄には誠実に答えましょう。特に資産や収入は生活保護の適用要件に関わりますので,きちんと説明しましょう。