セクシュアル・ハラスメントで訴えられたとき

セクシュアル・ハラスメントの加害者とされた方の中で,相手を困らせてやろうなどという悪意を持っていたという人はあまりいないのではないでしょうか。

おそらく大部分は,「相手のことが好きだった」「親しくなりたかった」「喜んでもらえると思った」「自分に好意を持ってくれていた」という理由から性的言動を行ったのであり,その心情に嘘はないのだろうと思います。

加害者とされた方は,社会的地位が高く,仕事がよくでき,周囲からの信頼も厚く,まさか自分が性的被害で訴えられるとは思ってもみなかったことでしょう。異性や後輩から人気があると自負している場合もあるでしょう。

このため,加害者とされた場合には,なぜ自分が訴えられるのか,どこに非があったのかということが全く理解できないということがよく起こります。

そして,自身の正しさを周囲に理解してもらうために,自身の認識を語ったり,相手の側に落ち度があると説明したい衝動にかられます。実際にも真剣な恋愛をしていた,とか,相手が誘惑してきたので答えないわけにはいかなかったという思いを持っている方は多いです。また,高価なプレゼントを贈ったり,仕事で取り立ててやったのに,相手は恩知らずだという感情も沸いてくるのではないかと思います。

 周囲の方々も,加害者とされた方に対して理解,同情的な態度を示してくれる場合が多いです。それは,加害者とされた方が職場で重要な地位にあったり,仕事がよくできたりするためであり,しかも,ご自身の体験を理路整然と語ることができる能力があるためでもあって,当然ともいえる反応と考えられます。

更に,弁護士に相談した場合には,弁護士も,加害者とされた方の言い分を信用し,加害者と同じ認識に立って,弁護活動を展開してくれる場合もあり得ます。そうなると,裁判に至った場合には,加害の事実を否認することは当然であり,被害を訴えた方に対する批判を展開することになります。

しかし,今,現にこのような体験をされている方は注意が必要です。かつて裁判所は,このような加害者側の主張を正しいものとして受け入れることもあったようですが,近年はさほど単純ではありません。安易に事実を否認したり,被害者を批判したりすれば,「二次被害」を生じさせたとして賠償額の上積みをされることさえあり得ます。

被害者の側は,同じ過去の事実について,加害者の側とは全く異なる認識を持っています。そして,今日では,被害者側の認識がより客観的な真実に近いものであるということが,裁判所を含めて広く共有されるに至っています。

セクシュアル・ハラスメントで訴えられた時には,反射的に否定したり,反撃したりすることは正しくありません。被害者に直接会って真意を確かめようとしたり,説得しようとしたりすることも正しい対応ではありません(被害を訴えられた後に二人きりで会うと言う行為は,お互いにとって何も有益な点はありません。)。そうすることで,被害を拡大させ,更には自身に返ってくる不利益も一層大きくなるおそれがあります。

被害を訴える方は,誠実な謝罪を求めていることが多いものです。加害者を失脚させようとか,高額の賠償を搾り取ろうと考えている被害者ばかりではありません。反射的に否認したり反論したりすれば,被害を拡大させることになり,弁護士の介入や訴訟提起を招きかねません。

ご自身の行為がセクシュアル・ハラスメントに該当するのか否か判断ができない場合,被害者対応について不安のある場合は,ハラスメント事案について知見のある弁護士にご相談ください。